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全国でどれくらいの酪農家が堆肥づくりでうまくいっているのだろう。
現地をまわっていて良質堆肥を見ることは少ない。
嫌気性発酵堆肥と良質ミネラルが牧場成功のチャンスとなる!
このシリーズでは「酪農家のための糞尿を有効利用した良質粗飼料づくり」というテーマで5回にわたって良質発酵堆肥による土づくりについて見てきました。予想以上の反響があって少し驚いています。しかし少しわかりづらいとの意見もあります。私としては、一般に指導されていること、言われていることと逆のことを主張していますので、立場としては地動説を唱えて宗教裁判にかけられているガリレオです。多少の理論武装も必要だったわけです。
そこで6回目の今回は嫌気性発酵堆肥を中心に、今までのまとめをしたいと思います。そしてサイレージ調製のシーズンに入りますので、間に合わない地域もあるかもしれませんが、サイレージについても触れておきたいと思います。
良質発酵堆肥のまとめ |
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《養分の供給》
《生理活性物質の生成》
土壌中で有用微生物が以下の物質を生成します。
ビタミン、成長ホルモン、抗生物質
《腐植の生成》
腐植は有機物の腐植化における最終産物で、以下の重要な役割を果たします。
栄養腐植、団粒の形成、陽イオン交換容量の増大、土壌pHの恒常性の改善、キレート化による微量ミネラルの有効化
《土壌微生物群の共生と拮抗》
作物の生育を助け、環境を保全します。
まとめ
多量の有用微生物が活性化された健全な土壌には、このような大変素晴らしい天然のシステムがあります。良質な発酵堆肥さえつくることができれば、誰でもこの素晴らしい天然のシステムを利用することができます。そして年々土壌も改良され、良質作物の生産が安定します。
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連載の2では生堆肥(未熟堆肥)・好気性発酵・嫌気性発酵の三つに分けて堆肥を見てきましたが、ここでは再度嫌気性と好気性の発酵堆肥について現実的な比較をしてみましょう(ここで言う嫌気性発酵とは、R/M※1添加という前提での嫌気性発酵です)。
※1:当社取り扱いの嫌気性菌主体による堆肥用微生物資材製品名の略。
発酵期間
嫌気性発酵は1カ月ほどで終わり、悪臭や作物への有害物質の発生もなくなります。一方、好気性発酵は敷料の種類と量にもよりますが、通常3カ月程度はかかります。
施設
嫌気性発酵は切り返しや曝気のための特別な施設や機械を必要としません。スラリーストアあるいは堆肥舎で良質な液肥、堆肥ができ、なおかつ発酵期間が短いので好気性発酵に比べ施設面積を小さくすることができます。したがって初期の投資もランニングコストも少なくなります。
敷料の多少
好気性発酵の場合、発酵を強くするために空隙を増やす目的で多くの敷料を必要とします。このような敷料の多い好気性発酵の場合でもR/M添加のものは無添加と比べて発酵は強くなり、発酵期間も短くなります。
一方、敷料の少ない堆肥、スラリー、尿等は明らかにR/M添加の嫌気性発酵が有利となります。
すなわちR/M添加による嫌気性発酵は発酵のために敷料の量を調整する(敷料を増やす)必要はありません。
肥料成分
嫌気性発酵は好気性発酵に比べ発酵温度が低く推移しますので、より多くのエネルギーを保持し、肥料成分は高くなります。
生理活性物質の生成
(有機物の腐植化の過程で生成される有効成分)
好気性発酵の場合、主に施用後すぐに生理活性物質が生成され、その後の持続性がありません。嫌気性発酵堆肥の場合、施用後生成される期間が長く、生成量も多くなります。
腐植の生成
(有機物の腐植化反応の最終産物)
生成量は嫌気性発酵堆肥のほうが多くなります。
上記の生理活性物質と腐植の生成について連載の1で紹介した文章を再度引用します。
コノノワ(1972)は、「有機物の腐植化は、微生物群の代謝機能とその誘導調整に大きな役割を果たすケイ酸塩、すなわち土壌の存在により、嫌気的条件下で芳香族構成物質が生成され、高分子化され、最終的には土壌の安定的物質としての腐植となる」と言っています。
微生物相
強力な好気性発酵により高温になれば、雑菌を殺し、安全な堆肥ができると一般的に言われていますが、本当に正しいのでしょうか?
連載の2でお話しした戻し堆肥のつくり方を再度紹介します。
「昔読んだ堆肥づくりの本に、戻し堆肥をつくる種菌として最も良いものは哺乳をしていて下痢をしていない健康な子牛の糞とありました。その糞の中にいる微生物は善玉の嫌気性菌のはずです」
さらに連載の1の“土壌微生物群の共生と拮抗”のところで紹介した文章も再度引用します。
「好気的環境では~ 悪臭の発生を解消することができなくなる。―中略―過度な好気条件など、腐植化反応を阻害するような条件が限度を超えると~ 雑菌(病原菌類、腐敗菌など)と共生するようになる、と技術士会の先生方は言っています」(「自然浄化処理技術の実際」地人書館より)
上記の件を考えるのに参考になる事例を紹介します。
R/Mの普及開始3年目に、環境性乳房炎対策にR/Mが使えないかどうか北海道内でテストをしたことがあります。3カ所の対尻式牛舎の牧場でテストをしました。対尻式牛舎の片側の牛床だけにR/Mを撒いてもらい、その反対側はR/Mを撒かず、いつもどおりの管理で対照区とし、6~8月の3カ月間比較してもらいました。その年は北海道でも、ところによっては最高気温が40℃近くまで上がり、牛舎用の扇風機が不足するなど、大騒ぎになった年です。
そのテスト期間中3~4回話を聞きに、その3カ所の牧場を訪問しました。その結果、テスト開始から時間が経てば経つほど、対照区に比べてR/Mを撒いた側の牛たちの乳房炎発生が少なくなっていき、とくに顕著な差が出たのは、その猛暑以後でした。
もう一つ事例を紹介します。北海道胆振管内T市I牧場でのことです。牛を大切に飼育し、大変牛飼いの上手な方です。チューブバッグ式サイロを利用して、良質サイレージを調製していらっしゃるので、視察等の依頼があった場合、協力いただいている牧場です。
あるときサイレージを見るために訪問した際、Iさんが「ちょっと見てもらいたいものがある」と言い、剣スコップをD型ハウスから取ってきて、Iさんの息子さんとともにパドックに行きました。そこでIさんは、高さ1mほどの二つの山にスコップを刺して土を取り、私に見せるのです。一つはスコップも刺さりにくく、泥の塊に糞が混じっているという感じでした。もう一方はスコップも軽くささり、取った土もサラサラで少し土のにおいがしました。
Iさん |
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「後で取ったこのサラサラのやつならトウモロコシの畑に入れても大丈夫だよね」 |
私 |
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「もちろん大丈夫ですよ。ところでどうしたのですか」 |
Iさん |
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「R/Mを牛床に撒くようになってから乳房炎が減ったんだが、雨続きでパドックがグチャグチャになって、乳房炎がぽつぽつと出てきたんだ。そこでパドック全体にR/Mを撒いたら乳房炎も治まった。そのR/Mを撒いたパドックの土を掃除のためにトラクターで出したのが、今見せたサラサラの軽い土なんだ。先に見せた泥の塊に糞が混じっているほうは、その前に掃除したR/Mなしの土さ。パドックから出した土をトウモロコシ畑に入れると病気が出るから今までは畑に入れないようにしていたんだが、R/M入りのこのパドックの土なら普通の畑の土よりいい感じだから畑に入れようと思って。一応念のため東出さんに確認してもらいたかったのさ」 |
とのこと。
後日談ですが、その後R/M入りのパドックから出した土を畑に入れるときには、中まで真っ黒なさらに良質な堆肥になっていたとのことです。
コスト
R/Mのコストとしては、条件により添加量に幅があるため多少の差はありますが、成牛100頭分で年間最大で36万円程度です。これは施設費やそのランニングコスト(電気代、油代、敷料、手間賃など)、さらに肥料成分と飼料の乾物率の向上などで十分まかなえるコストです。
出来上がり堆肥の形状
一般的に嫌気性発酵は好気性発酵に比べて発酵温度が低く推移するため、出来上がった嫌気性発酵堆肥は好気性のものより水分量が多いものとなります。そのため遠隔地への販売にはより多くの切り返しなどの作業をする必要があり、自己消費あるいは近隣での利用に適しています。ただし十分な低水分化が必要な場合、切り返し作業等を実施すれば通常の好気性発酵堆肥より早く出来上がり、品質もより良質なものができます。
まとめ
嫌気性発酵堆肥による土づくりは、以上に見てきたように現在推奨されている通常の好気性発酵のものに比べ多くの優位性があります。さらに、すでに設置済みの好気性発酵堆肥施設でも利用可能です。嫌気性発酵による堆肥づくりは現在多くの酪農家が抱えている糞尿と土づくりに関する問題を解決する一つの方法として、十分有効な管理技術です。
現在まで嫌気性発酵が一般的に評価を得られないのは、通常の好気性発酵としての十分な処理をされないで放置されたものを嫌気性発酵と判断したためと考えられます。それは腐敗、いわゆる「くされ堆肥」と呼ばれるものであり、R/Mを添加した「嫌気性発酵」とはその性質も機能もまったく異なるものです。「くされ堆肥」を施用した場合のピシウム菌、フザリウム菌などの有害微生物の発生やフェノール性の酸などの有害物質の放出はR/Mを添加した「嫌気性発酵堆肥」には見られません。
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【C/N比から見た良質堆肥づくりの実際】…連載の3 |
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ここでC/N比(炭素率)を取り上げたのは、堆肥の発酵、とくに好気性発酵の場合に重要なポイントになるからです。さらに出来上がった堆肥のC/N比は土壌環境と作物の生育に大きな影響を与えます。
好気性発酵による堆肥づくりでうまく発酵していない方は、再度連載の3を読んでみてください。いくつか参考になるものを載せています。
ここでは、堆肥発酵の阻害要因と考えられるものを以下に挙げます。
・蹄病対策の硫酸銅を堆肥に入れていないか。
・ポストハーベストの海外産敷料を使っていないか。
・必要以上に石灰類や消毒剤を牛舎で使っていないか。
・生堆肥を几帳面に堆肥舎の奥からどんどん積み上げていないか。
(最初に低く作って発酵したものから奥に重ねるようにすると、好気性発酵がしやすくなります)
さらに、屋根付堆肥舎になってから最近見かける失敗例を挙げておきます。
好気性発酵による堆肥づくりで熱も十分上がり、堆肥もパサパサになり、うまくいったと思って耕種農家に使ってもらったが、リピートが全然こなかったというケースです。
このことは糞乾施設でつくった堆肥でも起きています。これは発酵牛糞ではなく、乾燥牛糞と呼ぶべきで、野積みでやっていたものが屋根付きになったため雨や雪がかからなくなり、乾燥しやすくなっているからです。臭いもなく、輸送や取り回しには便利でしょうが、乾燥しているからといって必ずしも良質堆肥ができたわけではありません。
そこで堆肥の出来具合を簡単に調べる方法を紹介します。
1 |
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乾燥した堆肥に水をかけて、少し経ってからその臭いをチェックする。
(1)アンモニアなど糞尿独特の臭いが残っている。
(2)イヤな臭いがなく、芳香臭がする。
(3)山土のにおいがする。
(4)ほぼ無臭。 |
2 |
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乾燥した堆肥を茶こしに入れて下から火を近づけて焼いてみる。
(5)炎が出る。
(6)炎は出ないが、くすぶる。香ばしいにおいがする。
(7)炎は出ず、少しくすぶるだけで、ほぼ無臭。 |
(1)と(5)は未熟堆肥。
(2)と(6)は好気性発酵によるボカシ肥料の状態で、十分使えます。
(3)と(6)あるいは(7)は嫌気性発酵による一番良い堆肥の状態。
見た目は敷料が残っていて一見未熟に見えるが、山土のにおいがし、色はやや赤みを帯びたこげ茶色で、濡らすと黒に近いこげ茶色になる。とにかく良質な作物をつくります。
(4)と(7)は完熟堆肥です。濡らさなくとも黒に近いこげ茶色で、肥料成分は高くない。土壌改良効果はあるが、その持続性は高くない。
まとめ
土づくりのためにC/N比を考えて敷料を決定している人は少ないと思います。牛舎管理上の都合や、好気性発酵を成功させるための空隙をつくる目的で決定されているのが実態かもしれません。しかしC/N比が低ければ肥料効果が大きくなります。C/N比が高ければ土壌改良効果が大きくなり、土づくりにとっては重要な要素となります。詳しくは、今一度連載の3をお読みください。
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【良質堆肥づくりの最終目的は リン酸の有効化】…連載の4 |
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リン酸は生命現象のあらゆる部分に深い関連を持っています。植物にとっては光合成で必須であり、植物細胞を構成する各種炭水化物、タンパク質、脂質をはじめとするすべての化合物の合成、代謝と細胞分裂において不可欠の役割を果たしています。したがって自給飼料においても、品質の改善に貢献します。
しかし、この重要な働きをするリン酸はチッ素やカリと違い、土壌に施用した場合、作物が利用できるリン酸は大変少なくなります。化学肥料の場合、作物が利用できるリン酸の量は施用量の10~15%程で、その多くは利用されないリン酸となってしまいます。
まとめ
1 |
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微生物と相性の良い有機質リン酸カルシウム資材、リン酸質グアノ(S/G※2)を堆肥、液肥に投入して一緒に発酵させる。
結果⇒発酵も促進され、作物が利用できるリン酸が50~60%と改善されます。 |
2 |
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土壌改良効果の高い良質堆肥づくりに努め、土を軟らかくし、根の張りの良い作物づくりをする。
結果⇒リン酸の多くは細根や毛根の先端から吸収されるので、白根が増えるとリン酸の吸収も活発となります。さらに発酵堆肥のキレート作用により、固定化されていたリン酸も徐々に可給態となり、少しずつ利用されるようになります。 |
※2 当社取り扱いの土壌改良資材有機質リン酸カルシウム肥料(特殊肥料)製品名の略 |
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【微量ミネラルが作物と家畜を病気から守り、生産性を上げる】
…連載の5 |
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人間の場合、わずか0.02%の微量ミネラルが体内で大変重要な働きをしていることが明らかになってきています。また微量ミネラルが人間以外の動物や植物にとっても同様に重要であることも、年々明らかになってきています。先進各国の研究者たちは、微量ミネラルの不足が病気や犯罪の発生を増加させていると主張しています。
その微量ミネラルの特徴を見てみると、以下の三つになります。
●恒常性の維持
生命体は細胞レベルでその生命体の意志に関係なく、常に良好な状態で自らを維持しようとしています。そこで重要な働きをしているのが酵素とホルモンです。そしてそれらを活性化させる物質が微量ミネラルです。
●生体防御システム
生命体は侵入してくる病原菌やガン細胞から自らを守るため免疫物質を分泌して戦います。その免疫機能に微量ミネラルが効力を持っています。
●ミネラルのタイプ
ミネラルには吸収性に優れた「キレートミネラル」「コロイドミネラル」、そして吸収性の悪いものに「無機金属ミネラル」があります。
生命体に大変重要な働きを持つ微量ミネラルですが、通常のミネラルの形態では吸収性が悪く、必要量も非常に微量で、多すぎると毒性を示します。さらに微量ミネラル同士のバランスも取る必要があります。
この取り扱いの大変難しい微量ミネラルを、作物や家畜に適切に与える必要があるのです。
まとめ
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グアノや貝化石など微量ミネラルを含む良質な土壌改良資材を堆肥にも投入して一緒に発酵させ、その堆肥を積極的に利用して作物に吸収させる。あるいは土壌に直接散布して、やはり作物を通して家畜に吸収させる。
結果⇒吸収性に優れたキレートあるいはコロイドのミネラルとして効率よく吸収させる。 |
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市販のキレート化された良質な総合微量ミネラル資材を家畜に直接与える。当社ではAZM※3の普及を通して家畜・作物の健全化、良質化のお手伝いをさせていただいています。 |
※3:当社取り扱いの総合微量ミネラル資材製品名の略
前回までのまとめは以上です。次にサイレージについて見ていきます。
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サイレージは料理と同じです。料理にはその材料に合わせた調理の仕方があります。刺身が好きだからといって、いつも刺身にできるわけではありません。イキがいいから刺身にできるのです。イキが悪ければ煮魚にすべきです。
サイレージも同じで、毎年同じ条件で同じ原料を調製することは不可能でしょう。毎年原料や条件は微妙に違うはずですし、年によってはまったく違う年もあるはずです。
いろいろな原料や条件であっても、常に適切な対応をすることが本当の技術だと思います。刺身を作るのは上手なのだが、煮魚が下手な板前では困ると思うのです。
サイレージ調製のマネージメントについてはいろいろな先生方が指導をされており、多くの書籍も出版されていますので、十分な情報はあると思います。そこで、ここでは原料がサイレージ発酵に与える影響について見ていきます。
【良質原料の確保】
まず、良質な原料の確保が最も重要になります。今回の連載の中で紹介したように、良質な発酵堆肥と適切な土壌改良資材を利用した土づくりによる良質な原料は糖度が高く、硝酸態チッ素は少なく、乾物率も高くなり、より良質なサイレージ発酵の条件が揃います。その他食品残渣等で発酵飼料をつくる場合は、新鮮原料の確保が重要です。
【水分】
原料の品質の次に発酵に大きな影響を与えるものはおそらく水分率でしょう。当然のことですが、生育ステージにより原料の水分は大きく違います。牧草もトウモロコシも若いステージでは水分が多くなり、成熟すると水分は少なくなります。また生糞尿や化学肥料を多量に投入すると、原料の水分も高くなります。
高水分の場合は酪酸発酵をさせないように、排汁処理のあるバンカーあるいは低いスタック(下には何も敷かない)に詰めるか、乳酸菌添加剤を使う場合は、添加量を多めにするか、酵素をプラスされたものあるいは乳酸菌プラス糖蜜もしくはブドウ糖を添加すると良いでしょう(糖蜜はミネラルが多いので、ブドウ糖より微生物を活性化し、より強い発酵になります)。
【原料の硬さ】
生育ステージが進めば進むほど、予乾をすればするほど(水分が低くなるほど)、原料は硬くなります。原料の硬さも発酵に影響を与えます。原料が硬くなると踏圧がかかりにくくなり、密度が下がります。これはサイレージの初期発酵と開封後のバンクライフにも影響します。刈り遅れの原料はあまり強い予乾をせず、とくに旱魃の年はダイレクトで詰めるくらいの気持ちで。ワンマンハーベスターの場合とくに乾きすぎに注意が必要です。
【CP】
CP18とCP12があれば、だれもがCP18をほしいはずです。しかしCP18はCP12に比べて2倍の乳酸ができなければ同じpHにはなりません。これを緩衝能と言います。これが早刈りや新播の牧草サイレージが期待ほど良い発酵をしない主な原因です。そこで糖添加あるいは酵素入り乳酸菌でより多くの乳酸をつくり、酪酸発酵を確実に抑制するところまでpHを下げることが求められます。
しかし一方、仮にpHが十分に下がり酪酸発酵は抑えられても、この場合タンパク質では溶解性のものが増加し、その利用性が低くなります。
CPの高い原料は、二次発酵しない程度に少し予乾を強くするか、低水分のラップサイレージに適しています。乾草も良いのですが、CPが高いものは一般的に水分も多く乾きにくいので、日本では調製が難しいと思います。
トウモロコシは糖も十分あり、CPも低いので、より少ない乳酸でpHが下がります。そのため熟期や栽培方法にもよりますが、原料中の糖が余る場合があります。何らかの原因で二次発酵(好気的変敗)が始まると、なかなかおさまらなくなるのはその余った糖が酵母やカビに利用されるためです。
余談になりますが、ルーサンとトウモロコシを同時にサイロに詰めるというトライアルをサイロ規模で実施したことがありますが、見事なサイレージができます。これは、ルーサンとトウモロコシの両方の長所がお互いの短所を補完し合うためと考えられます。
【硝酸態チッ素】
「硝酸態チッ素が原料に多くてもサイレージになればかなり減少するので、心配する必要はない」と話す方がいます。確かに硝酸態チッ素はサイレージ原料詰め込み直後にコリ型菌によりガス化されます。そのガスは毒性が強く、黄色あるいは赤褐色で重いガスですが、密度の少ないサイロ上部か、排汁と共にサイロ外に放出されます。しかし、この硝酸態チッ素がガス化されるときに糖も消費され、その後の乳酸発酵に影響を与えます。
また必ず硝酸態チッ素が十分にガス化するとはかぎりません。硝酸態チッ素が多く残ったサイレージの特徴としては、原料の色が強く残っており、サイロから取った瞬間「ツン」としたシンナー臭がします。口に含むと苦い味がします。乳頭を踏む牛や漏乳の牛が増えたら硝酸態チッ素を調べてみるのが良いでしょう。
硝酸態チッ素は生糞尿やチッ素肥料の多投入、密植栽培、旱魃のときに多くなります。
以前調査したことがあるのですが、マルチ栽培によるトウモロコシ栽培での密植・多肥栽培にはとくに注意する必要があります。植物の健全な生育には温度だけでなく、光が必要です。硝酸態チッ素は植物が生育するために必要な原料です。これがスムーズにアミノ酸、タンパク質そして糖の合成に利用されれば硝酸態チッ素の問題は解決します。円滑に利用されるために必要なのが光(お日さま力)とリン酸です。
いずれにしても硝酸態チッ素の少ない原料を作るべきです。
【糖】
「トウモロコシには糖が多いので添加剤など要らない」とお話される方がいます。
海外でトウモロコシサイレージに乳酸菌調製剤を使用する最大の目的は、乾物回収率を上げるためです。事実は牧草に添加した場合の乾物回収率の改善より、トウモロコシに添加した場合のほうが大きな改善効果があることがわかっています。その効果を金額で言うと、トウモロコシの場合、例えば500t分の原料に添加剤として20万円投資したとすると、そのサイレージの乾物回収率の改善による価値は40万円以上に相当するということです。つまり添加剤を使用しなかった場合、20万円の投資を節約したために、手に入れることのできる40万円以上の収入を、すなわち、差し引き20万円以上の純利益を得るチャンスを失ったことになります。
さらにサイレージの消化率の改善や発酵品質の改善による乳牛のコンディションと産乳量への影響も考えるともっと大きな利益の差となります(米国ではこの費用対効果をパンフレットに記載している例もあります)。
さらに栽培方法にもよりますが、黄熟後期以降のトウモロコシの糖は皆さんが期待したものよりも少ないものです。そのためサイレージのpHが4程度、時には4.2くらいにしかならない場合があります。そのために二次発酵や、カビが発生したりするのです。サマーサイレージとして使う場合や霜にあたったとき、あるいは台風などでダメージを受けたときはとくに要注意です。この場合、乳酸菌よりもプロピオン酸系のサイレージ調製剤が有効です。
もう一つ例をあげると、低水分の牧草に糖を添加した場合、より二次発酵する可能性が高まります。
すなわち十分に糖があっても乳酸菌だけが、さらに言うと発酵効率の良いホモ型乳酸菌だけが糖を使うとは限らないということです。とくに糖を添加する場合は、サイレージ用乳酸菌調製剤の添加とともに利用すべきです。
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今回いくつかの嫌気性発酵堆肥の事例を紹介する予定でしたが、誌面の関係で次回紹介します。 |
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