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古くから切り返しや曝気による堆肥(液肥)づくりが永く奨励されている。 しかし今の日本でそれを実践し、そして成功している酪農家や堆肥センターが実際どれくらいあるのか? 糞尿施設も整備はしたが…?

《前回の復習》
本題に入る前に、前回の復習をしておきたいと思います。前回は土壌中での微生物の働きによる素晴らしい天然のシステムについて見てきました。もう一度ポイントだけを簡単に復習しておきましょう。
発酵堆肥(有機物の腐植化)の利用目的
  養分供給
    化学肥料や生堆肥(新鮮有機物)でも補えます。発酵堆肥の優利性はむしろ以下の2~4があげられます。
  生理活性物質の生成
    土壌中では有用微生物は以下の物質を生成します。
ビタミンの生成―ビタミン類の多様なことは、肥沃な土壌の一つの特徴で、植物の生育を助けます。
成長ホルモンの生成―成長促進物質は根と地上部の生育を促進します。
抗生物質の生成―病原菌、腐敗菌の生育を抑制し、病害の発生を低下させます。
  腐植の生成
    腐植は有機物の腐植化における最終産物で、植物の健全な生育に重要な役割を果たします。
主な役割(働き)は以下のとおり;
栄養腐植―植物が必要なときに必要な量の養分を供給します。
団粒の形成―土を軟らかくし、水分と空気の供給を安定化させ、根の張りを助けます。
陽イオン交換容量の増大―保肥力を向上させ、環境への負荷を軽減します。
緩衝力の増大―土壌pHの恒常性を改善し、植物へのストレスを軽減します。
キレート化合物―植物の微量要素となる金属イオンの有効性を高めます。
  土壌微生物群の共生と拮抗
    植物の生育を助けたり、病害から守ったり、環境の変化に対する多様性に貢献し、環境を保全します。

 大きく四つに分けて見てきたわけですが、この四つの素晴らしい天然のシステムを引き出すことが土づくりの目標(ゴール)となります。この目標達成に不可欠なのが、堆肥(有機物)です。耕種農家と違い酪農家の皆さんは糞尿というかたちでより多くの有機物を毎日獲得しているわけですから、この目標を持つこと、さらにそれを達成することも夢ではないはずです。しかし注意しなければならないこともあります。それは堆肥(有機物)が絶対ではないということです。周知のことでありますが、ただ単に堆肥を土壌に投入していればこの目標を達成できるというような単純なものではありませんし、むしろ堆肥が悪さをしている場合のほうが多いかもしれません。すなわち単に堆肥(有機物)があるということは、必要条件ではあっても、それだけでは決して十分条件にはなりません。
  では、堆肥を十分条件にする方法について具体的に見ていきましょう。

  まず、堆肥を以下の3種に分けて見てみましょう。

堆肥の種類
・生堆肥(新鮮有機物)、未熟堆肥
・好気性発酵堆肥(一般的で、不変的な堆肥)
・嫌気性発酵堆肥
生堆肥・未熟堆肥
※ここでは未熟堆肥も生堆肥として扱い、そう表現します。

堆肥づくりなどせず、生堆肥をそのまま畑に散布できればどれほど労力的に、またコスト的に楽になることでしょう。しかし、先に見てきたようなすばらしい天然のシステムを引き出すことはとうてい不可能となり、むしろこれからお話しするような多くのダメージを土壌と作物に与えます。
  生堆肥を多量に施用した場合、低分子の糖を利用するピシウム菌が一般的に増殖して苗立枯れを起こしたり、フザリウムによる病気の発生や連作障害を発生させる原因菌あるいはセンチュウ類の発生を助長します。またアンモニアや炭酸ガスなどが多量に発生し、作物の生育に大きなストレスを与えます。さらにC/N比(炭素率=炭素と窒素の割合。次回詳しく説明します)が高い場合、作物生育にとって重要な窒素が、堆肥を分解するために微生物に取り込まれてしまいます。これを『窒素飢餓』と呼んでいます。窒素飢餓が起こると、作物生産に多大な被害を与えます。
  一方、C/N比が低い堆肥を多量に施用すると逆に窒素過多となり、作物は軟弱となり、倒伏や病害発生の危険性が高まり、さらに硝酸態窒素の多い作物となり、サイレージの発酵品質と家畜の飼料としての価値を低下させます。さらに環境汚染の原因ともなります。この環境への負荷の問題は、日本も水質保全のために欧米のような新しいルールづくりが今後重要な課題になるでしょう。
  以上のような多くのマイナス面を生堆肥、未熟堆肥は持っています。その結果圃場では、以下のような症状が発生する確率が高まります。

トウモロコシ、ソルゴーの場合
発芽不良や苗立枯れなどにより、株立て本数が減少する。
初期生育が悪くなり、揃い性も悪く不稔個体が増える。
倒伏や病気の発生が多くなる。
登熟が遅れ、枯れ上がりも悪くなり、硝酸態窒素と水分の多い低品質なサイレージ原料になる。

牧草の場合
生の尿、時にはスラリーでも高温時に散布すると牧草がやけるなどのストレスを受け、裸地が増え、草地の荒廃が始まる。発酵させた尿は臭い(アンモニア)も少なく、草がやけるようなことも起きない。
牧草以外の雑草、とくにギシギシが増える。

  生堆肥から種子が持ち込まれたり、生育中の株から種子が落ちて増えると言われていますが、それだけではありません。むしろ草地を生堆肥で荒廃させたことにより、荒地に適するギシギシが優勢になった結果と考えられます。これは良質な発酵堆肥や尿を散布するとギシギシはどんどん退化していくということを私も酪農家の方々も経験として持っているからです。
  例えば、イネ科とマメ科の混播草地でマメ科が優勢になった場合、マメ科の種子が落ちて増えていっているとは考えないでしょう。イネ科よりもマメ科に適した条件が揃ってきたために起きたことと考えるのが一般的なはずです。マメ科が消えて、イネ科になった場合も同様です。“雑草が教えてくれること”というような海外で出版されていた本を昔読んだことがあるのですが…。
収穫時の乾物と糖度が低く、硝酸態窒素の高い倒れやすく乾きにくい牧草となり、サイレージや乾草の良質化が難しくなる。
散布時期によっては、収穫時(刈り取り時)に牧草に堆肥が混入し、サイレージを劣悪なものにする可能性がある。

  適正な量(少量)の生堆肥を分解能力の高い圃場(微生物の多い)に計画的に投入し、肥料や土壌改良剤の利用も工夫して良質自給飼料を栽培することは可能かもしれません。
  しかし、現在日本の酪農の飼料調達状況は、例えば10haの自給飼料畑を持っている牧場は、おおざっぱではありますが、海外の20haの畑から収穫される飼料も利用しているのです。30haの畑から生産された飼料によって排出された糞尿を生で10haの畑に連続投入し、良質自給飼料を栽培し、さらに環境を保全することはおそらく不可能でしょう。
  そのような日本独特の飼料調達の状況に合った方法として、何らかの手段で発酵を促進し、土壌や作物にストレスを与えずに、さらに環境にも負荷を与えない堆肥利用の技術体系が今、最も重要な課題ではないでしょうか?

好気性発酵堆肥
日本では、江戸時代まで嫌気性発酵で堆肥を作っており、そのため食糧自給率が100%だったというような内容のことを読んだことがあります。しからばこの好気性発酵堆肥なるものは明治時代から始まったことになりますが、以来日本では堆肥づくりの定番ということになります。また数多くの先生方が本に書いていますし、また推奨もしているので、堆肥づくりの王道でしょう。
  この好気性発酵による堆肥づくりについては私も10年程前までの約20年間、現場で各地の酪農家の方々と真剣に堆肥づくりに取り組み、実践してきました。「どうしたら良い発酵が起こるのだろう? これは完熟堆肥になっているのか? 肥料や土壌改良剤はどうしたら良いのか? その堆肥を投入した畑の牧草やトウモロコシは良質なものになったのだろうか? その牧草やトウモロコシを食べた牛たちの反応は? さらにどのような堆肥がその土質に一番良いのだろうか?」などなど、実にいろいろな経験をさせていただきました。

 その好気性発酵堆肥に対する私の結論は以下のとおりです。

前月号に書いたとおり、良質な作物をつくるための手段として有効である。先に書いた生堆肥の悪さはすべて解消される。
ただし堆肥づくりのために多大なエネルギー(労力、施設、時間、石油、電気、敷料等)を必要とする。そのため多くの方々が良いとはわかっていても頭数の増加とともに実践できずにいるのが現状ではないでしょうか。
さらに土壌改良効果は高いが、堆肥中のエネルギーのロスが多く、完熟に近いものほど、収量に影響を与え、結局、化学肥料の使用量低減ができなくなる。
好気性発酵堆肥の場合、好気性微生物が酸素(O)を利用して堆肥を分解し、自らは増殖し、多量の熱とともに炭素(C)を炭酸ガス(CO2)、窒素(N)を窒素酸化物(NOX)、硫黄を硫黄酸化物(SOX)として多量に大気中に放出します。その結果、最終的には臭いの少ない安定した物質となります。しかし現在では循環型社会の構築と環境保全型農業の確立を目指すヨーロッパを中心に、この放出される物質が地球の温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊の原因、すなわち大気汚染の原因になっていると指摘しています。さらに化学肥料の投入量低減のために、有機物中の成分の大気中への揮散を防止し、その有効利用を検討しています。 日本は水質保全のために糞尿施設の整備を進めてきました。しかし畜産先進地のヨーロッパではすでに水質汚染から大気汚染に目が向けられています。その点好気性発酵は、今後多くの改善が迫られる可能性があるように思います。

  7年程前にヨーロッパで開催された糞尿に関するシンポジウムの報告会で、ある大学の先生が「ヨーロッパで今一番注目されているのが嫌気性発酵による堆肥づくり」と話をされていました。次に、その嫌気性発酵堆肥についてお話したいと思います。

嫌気性発酵堆肥
この嫌気性発酵による堆肥づくりについては、何らかの専用の微生物資材を必要とします。ここでは当社で扱っている製品の頭文字をとってR/Mとします。
  私がR/Mの紹介を受けたのが、12年前の1993年のことでした。さっそく親しくお付き合いをさせていただいている牧場で小さな規模の試験を始めました。まずバケツ二つを用意して、牛舎の尿溝から糞尿を取ってきて両方のバケツに入れ、片方にR/Mを添加し、もう一方は無添加として、両方ともよく攪拌をしました。しばらく様子を見ていると、無添加のほうにだんだんハエが寄ってきました。しかしR/Mのほうには一匹もハエが寄らないのです。鼻を近づけてみると、無添加のほうは糞尿独特のツンとするアンモニアの臭いがします。しかしR/M添加のほうはアンモニアのイヤな臭いがしないのです。次にワンカップの空コップを二つ用意して、両方に少し固まりかけた糞を少量入れてR/M添加と無添加で比較してみました。そうするとどうでしょう。R/M添加のほうはゆっくりですが、上下にぐるぐる回りだしたのです。さらに両方に少量の砂糖を入れてみました。R/M添加のほうはさらに早く回りだしたのです。無添加のほうも少し回りだしました。そしてとうとうR/Mのほうは固まって上に浮いていた糞の塊はなくなって全体に均一に広がったのです。次にバケツ二つにそれぞれ生尿を入れました。一つにR/Mを添加し、もう一つは無添加とし、両方よく攪拌して数日放置して、よく晴れた日中に芝に撒いてみました。R/M添加の尿を撒いたところには何の変化もありませんでした。無添加のほうの芝は黄色に変色し、裸地ができました。さらに、違う牧場で処理室前の古タイヤで作った花壇で試してもらいました。

  ①R/M添加して1週間の堆肥を入れたもの
  ②通常の切り返しの半年ものの堆肥を入れたもの
  ③生堆肥を入れたもの
  ④化学肥料だけを入れたもの
  ⑤何も施用しないもの

  この五つの花壇における花の状態を、その牧場のお母さんが評価してくれました。R/M添加の堆肥①が一番花芽をつけて、秋遅く最後まで花をつけ、その差は大きかったよ、とのこと。あとは番号順にわずかな差でした。何も施用しなかった⑤は一番貧弱で早く花が終わったとのこと。
  こんな小さな試験から始まったことですが、これはなんとなくいいぞ、というレベルではないという気がしました。そして各地の牧場での試験を開始しました。とくに発酵がむずかしい冷涼な北海道、とくに根釧を中心にスラリー、尿、堆肥でデモを実施しました。みなさんの評価も高かったので、1996年販売を開始し、今日に至っております。事例については後で紹介したいと思います。

  今日までの10年あまりの嫌気性発酵堆肥に関する要約は、以下のとおりになります。
添加後の発酵中の臭いも、圃場に散布後の臭いも少ない。
発酵期間が短い、切り返しや曝気を減らすことができる=堆肥が土壌に投入可能になるまでの期間が短い。尿の場合1~2週間程度で、高温時でも草はやけない。
肥料成分(エネルギー)が高い。減肥分でR/Mのコストがまかなえる。
作物の登熟が進む(冷害年の麦、米における等級が高かった)。
10年以上の連続使用で何ら問題は起きておらず、長期使用が可能。
牛床やパドックに散布した場合、環境性乳房炎を抑制すると言われている(多くの酪農家の評価)。
堆肥センターでの成果として、1カ月程度で仕上げた堆肥がハウス栽培でハウス1棟当たり10tを毎年投入して高い評価を得ている。大量使用・連続使用が可能と思われる(九州・熊本、しかし堆肥発酵の一般的な分析では評価は低い)。
嫌気性発酵堆肥を作る場合、R/Mのような何らかの種菌の接種が必要。無添加では多くの先生が言われるように嫌気性発酵では良い堆肥、液肥はできない。したがって無添加の場合、十分な切り返しあるいは曝気を実施した好気性発酵のほうが良いものができる。

  嫌気性発酵というとサイレージをイメージするかもしれませんが、むしろ毎日糠床を返す漬物の作り方、または発酵乳を作るときに毎日攪拌するように通性の嫌気性発酵が最も良い堆肥、液肥になります。すなわち液肥の場合も堆肥の場合も、曝気というよりも攪拌が必要となります。堆肥を流通させたい場合、最終段階で2~3回軽く切り返しを実施すると水分が飛んで、流通しやすい堆肥ができます。

《結論》
  昔読んだ堆肥づくりの本に、戻し堆肥をつくる種菌として最も良いものは、哺乳をしていて下痢をしていない健康な子牛の糞とありました。その糞の中にいる微生物は善玉の嫌気性菌のはずです。
  二次発酵したトウモロコシサイレージを堆肥に投入すると堆肥発酵が進み、良い堆肥ができたという経験を持っている方は多いのではないでしょうか。しかし青刈りのトウモロコシを入れてもサイレージほど堆肥を発酵させないものです。
  さらに水田は何百年もの米の単作利用が可能です。畑はどうでしょう。麦を何十年も連作できるでしょうか? 水田は生育中には水を張り、嫌気状態となります。好気性菌(病原菌の多くはこの好気性菌です)はあまり動きません。そして収穫時に水を抜きます。収穫後、その好気状態で有機物の分解が進みます。さらに水は畑のように直接雨が入るのではなく、一度山に降って、土からしみ出てきたミネラルの多い水が田んぼには入ります。
  これらの中に良質堆肥づくりと良質作物栽培のための重要なヒントがあるのではないでしょうか。
  生堆肥中には低分子の成分が多く、そのままでは好気性菌による発酵によって作物にさまざまな障害を与える可能性があります。よってこの段階までは嫌気性発酵主体による堆肥づくりを進め、それ以降はセルロース、リグニンなどの分解がより進む環境、すなわちケイ酸塩の多い土壌中で嫌気性菌と好気性菌により発酵させる(土中発酵)。その土中発酵の段階で先月号で取り上げたすばらしい天然のシステムがはたらき、最終的には腐植ができるのです。


嫌気性菌主体による作物に障害の出ない段階まで発酵させた力(養分)のある発酵堆肥。
それを鉄やコンクリートではなくケイ酸塩の多い、すなわち土壌中のほうが微生物のすみかとしては適しているので、できるだけ土中発酵を目指す。
有用な嫌気性菌による発酵は臭いが減少する。
堆肥づくりあるいは土中発酵の段階で嫌気性発酵が主体になると病原菌、腐敗菌は減少する(水田と同様)。

次回は、さらに良質な堆肥をつくるために必要な条件について炭素とミネラルを中心に見ていきます。
 

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